僕の家は、江戸時代から230年以上続く「岩谷堂箪笥」の製作所です。岩谷堂箪笥は、国から指定を受けた岩手の「伝統的工芸品」。箪笥本体の組み立てから仕上げ作業まで、全て職人の手仕事によってつくられています。僕は、子どもの頃から作業所に出入りし職人さんが働く様子を眺めていたせいか、箪笥ができる工程は自然に覚えていました。
長男として家を継ぐと、はっきり意思が固まったのは関東にある箪笥の卸問屋に就職してから。流通の現場を学び、お客様の声を直接聞くことができた貴重な時間でした。商品の配送業務を通して商品に対するシビアな評価を聞くことができたし、箪笥が生活空間を創りあげる大切なコンテンツなのだと捉えるようになりました。また、営業現場で売る苦労を重ねる中、岩谷堂箪笥の特徴は何か、その価値をどう伝えるかを改めて学びました。家業を継ぐだけでなく、岩谷堂箪笥全体のクオリティをどう上げていくか、今後の課題を見せつけられた5年間。本格的に箪笥の世界に入るべく、岩手へ帰ってきたのは25歳の時でした。