私、もともとは、図書館司書や新聞記者になりたかったんです。自分が良いと思ったものを人に伝えたり、広めたりする仕事。子どもの頃、先生から読書感想文を褒めてもらったことが忘れられなくて…。サービス業なんて、正直、頭の片隅にもありませんでした（笑）。接客に対してはむしろ苦手意識をもっていたほどです。
　でも、就職活動でたまたま立ち寄ったブースで花巻温泉の人たちと出会い、私の中にはじめてサービス業という選択肢が生まれたんです。学生の私に対しても、ものすごく親身に、優しく接してくれて。就活に疲れていた私にとって、それが最高のおもてなしだったのかもしれません。こんな温泉があるんだな、この人たちと一緒に、もっと世の中に広めていきたいな。そんな想いで、私は全く馴染みがなかったおもてなしの世界へ飛び込みました。

　私が最初に配属されたのは、ホテルのフロント業務でした。私は本当に失敗が多くて、物事を伝えずに怒られ、自分一人でやりすぎて怒られ、とにかく怒られ続ける毎日でした。やっぱり向いていなかったのかな？と思ったことさえありました。
　そんな中、忘れられない出会いがあります。ご夫婦でいらしたお客様を部屋までご案内し、「ご用件がある場合の電話は〇番です」とお伝えしたところ、「話ができない」とジェスチャーされたんです。聴覚障がいをお持ちのご夫婦でした。私、高校生の頃に手話を少し習っていたので、「電話をかけた際、トントントンと3回音を叩いたら、係の者がお部屋まで伺うようにします」とジェスチャーを交えてお伝えしたんです。そしたらとても喜んでいただいて、翌日朝食会場でお会いした時もギュッとハグしてくれて。ああ、やっぱりこの仕事について良かった。人に喜んでいただくことがこんなにも嬉しいことなんだって、思えた瞬間でした。

　入社3年目の時、営業企画部へ異動しました。花巻温泉の広報担当として、イベントの立案や商品開発、広告チラシなどの制作を担当する部署です。まだ先輩のサポートが多い中、自分の発案した「シャンプーバー」が採用された時は嬉しかった。花巻温泉の中でもグレードの高い宿「佳松園」に置く女性用シャンプーやトリートメントを選べる企画です。ホテルに合わせて、普段はめったに使えない高価なブランドを揃えたら、喜んでもらえるかなって。社内では賛否いろいろでしたが、私は支配人に何度もプレゼンし、「もしお客様からご指摘がきたらすぐに撤去します」と、赤松の木を使った専用台をつくってしまったんです。結果、旅行会社のお客様アンケートで「シャンプーバーが良かった」という評価をたくさんいただくことができました。その後、男性用のシャンプーバーも実現し、心の中で小さくガッツポーズしています（笑）

　営業企画部になり、花巻温泉の公式キャラクターづくりにも携わりました。名前は花巻市の鳥でもあるフクロウをモチーフにした「フクロー」。ゆるキャラグランプリでは、なんと企業ゆるキャラ部門で東北一位を獲得したこともある人気者。フクローも、私たちも、人々に福をお届けするのが仕事です。苦手かも、と思っていたおもてなしの仕事に就いてもう７年。少しずつ自分ができることから、お客様にちいさな福をお届けできるようになってきました。図書館司書だったら本を通して、花巻温泉だったらおもてなしを通して、仕事でものごとの価値を伝えること、目の前にいる相手に楽しさや幸せを伝えることに、変わりはありません。ここにいらっしゃるたくさんのお客様を通じて、もっともっと日本中に、花巻温泉の魅力を広めていきたい。それが私の使命です。